header
このページでは、CAPDについての質問を専門にお答えします。
下のフォームをお書き込みの上、送信してください。

  
[ これまでの質問内容 ]
特定の医院・医師などの中傷については、事前の断りなく削除する場合があります。ご了承ください。
また、半角カタカナはご利用になれませんのでご了承ください。


硬化性腹膜炎腸閉塞について /山地 初  

硬化性腹膜炎腸閉塞について詳しく知りたいので教えていただけないでしょうか。

回答 /白石病院CAPD担当ナース

おたずねの”硬化性腹膜炎腸閉塞”とは、たぶんCAPDの最も深刻な合併症である被嚢性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis:EPS)のことではないかと思って話しをすすめます。
これは腸管が薄い皮膜によって繭状に包みこまれるために、腸の蠕動運動が妨げられ腸閉塞をおこします。発症しやすい要因として、CAPD期間が5〜10年と長い・除水量が前よりも減ってきているなどの腹膜機能低下症または腹膜劣化がきている患者さまや、細菌性の腹膜炎を繰り返している患者さまに多いです。
腹膜は透析液に晒されており、それによって起きる腹膜の傷害:腹膜劣化がEPSの背景にあり、加えて腹膜の炎症が長引くと腹膜の血管が脆くなり凝固因子が浸みだしてきます。それらのなかの線維素:フィブリンが被膜をつくり腸を包み込んでしまうといわれています。CAPDを続けているかぎりしみでてきたフィブリンなどの凝固因子は排液とともに排出されますが、止めてしまうとそこに溜まってしまうため皮膜ができあがります。このためCAPDを止めてから、EPSの症状がはっきりあらわれるのです。
予防
1.腹膜劣化をなるべく起こさない。
透析液の何が腹膜を傷害するのかというと、酸性であること(PHが低い)・ブドウ糖・ブドウ糖分解産物・高い浸透圧・乳酸などがあげられます。まずPHについては3年前に中性化透析液が発売されました。中性液はブドウ糖分解産物も低減されています。ブドウ糖ですが、水をたくさん除去するにはよりブドウ糖の高い透析液を使うことになります。患者さまが塩分水分制限を守り、なるべくブドウ糖の低い透析液で水分コントロールを行うことによって腹膜の痛み具合が違ってきます。また今年はブドウ糖を含まず長時間除水機能を保ち、かつ浸透圧が従来のものよりも低い透析液も発売されます。乳酸は今のところどの液にも含まれています。
2.腹膜の炎症をおこさない。
腹膜の炎症の多くは細菌性腹膜炎が原因なので、通常のバッグ交換時の環境整備や操作は基本を守って慎重に行うことはいうまでもありません。もし排液が白濁した場合は、速やかに受診し腹膜炎かどうか判別してもらい腹膜炎と確定した場合なるべく早く治療を開始することが治癒に結びつきます。朝になるまで待ったり、そのうち良くなるかもしれないなどと受診を延ばすことは危険です。またカテーテル出口及び皮下トンネル感染の治療を引き延ばしていると治りにくくなったり腹膜炎を起こします。出口変更などの手術を勧められたときは積極的に受けた方が良いでしょう。
3.腹膜劣化の程度を知る。
記録帳の記載を継続することによって同じ濃度の透析液を同じ時間貯留したときの除水量が減っていないか、ブドウ糖の高い液の使用頻度がどのぐらい増えたかなどを振り返るうえで大切な情報となります。腹膜機能検査(PET)や排液中皮細胞診などで腹膜の傷み具合をとらえることができます。年1回は受けると良いでしょう。
4.腹膜劣化が進行していると推測される場合の対処
酸性液を使っている場合中性液に変更すると除水が戻ったり排液中皮細胞診の結果が良くなることも経験しています。確実なのはPDは1日1〜2回の洗浄だけにしてしばらく血液透析(HD)に移行し腹膜を休めてあげることです。洗浄とは透析液を注入したらすぐ排出し、お腹に貯めておかないことです。そしてその洗浄した排液を定期的に検査し、傷んだ腹膜の回復具合をみてPDに戻る時期やカテーテルを抜去して完全にHDに移るかを決めます。患者さまはPDを始めたら何が何でもPDを続けようと思ってしまいがちですが、数ヶ月〜数年PDを休んでいたら考え方も変わってHDのほうが面倒くさくない・家族の方の負担が軽くなるといった理由でHDを選択する方もいらっしゃいます。
5.施設独自の基準を作ってその基準を越したらHDに移る。
PDは5年たったら皆HDに移りましょうとか・1人の患者さまが腹膜炎を2回起こしたらPDは止めましょうといった取り決めをしている施設もあります。
治療
劣化した腹膜に何らかの炎症が加わりEPSに向かいつつある場合は、ステロイドという薬剤が使われます。適切な時期にステロイドが使われれば腸管の皮膜は形成されないで済むといわれています。不幸にして腸閉塞が起きた場合は、いったん点滴のみとし口から食物を食べることを止め腸管を休めます。容態によってはくっついてひとかたまりになった腸管の剥離術がおこなわれます。